事業を始めようとすると、多くの場合は初期投資が必要になります。
お金を借りらえても返せなくなったらどうしようかと心配な面も多くあります。実際に事業がうまくいかなければ借金を抱えて廃業に追い込まれることになりますので、借入を行うに当たっては相当な覚悟が必要になります。
しかしながら、借入金は適切に利用することで事業の発展や時間短縮に寄与します。きちんと利益を出せば、利息を払ったとしてもそれ以上に実入りも大きくなる非常に有意義なものとなり、借り入れを活用するメリットは非常に大きいと言えます。
借入金とは
借入金とは何なのでしょうか。
法律の分類では金銭消費貸借契約と言います。住宅等のように借りたものそのものを返すのではなく、お金は使用するのを前提として借りたお金と同額のお金を返す契約となります。事業を行う上では特別なことではなく、ごく一般的な契約形態です。
借入額と借入期間を決めた後、元本を借入期間をで按分し残債に対する利息を付して返済していきます。
借入をするメリット
資金力に乏しい中小企業にとっては、資本金を補う擬似資本と言われることもあるぐらいに、一般的に利用されています。
小さな飲食店を開店するにしても1,000万円程度は当たり前に費用がかかります。開業資金を貯めるために何年もサラリーマンをすることになりますが借入をすることですぐにスタートか切れるメリットがあります。
借入金のデメリット
借入金にも当然デメリットはあります。
1番に思い浮かぶのは、事業がうまくいかずに返せなくなるリスクです。
毎月返済の為にキャッシュが出ていくことになり、返済額以上の利益を出していなければ日を追うごとに会社の現金が減り続けるというプレッシャーを抱えることとなります。
返済が滞れば、新たな借入が出来なくなり会社は危機的な状況になります。
また、継続的に元本に加えて利息を支払う必要があります。
会計上の仕分け
借入を行った場合、以下のように仕分けをします。
借入時の仕訳
借方 | 貸方 | ||
現金 | 97 | 長期借入金 | 100 |
長期前払費用 | 2 | ||
支払手数料 | 1 |
返済時
借方 | 貸方 | ||
長期借入金 | 100 | 現金 | 102 |
支払利息 | 2 |
複式簿記においては、資産項目である現金の増加と同時に負債項目の借入金が増加します。
一般的に一1年以内に返済する借入を短期借入金とし、一年以上のものを長期借入金とすることとされています。
借入の際には、保証料や印紙代等を引かれた後の振り込まれるのが一般的です。保証料は長期前払費用で資産処理し、借入期間で按分して費用化するのが一般的です。
借入の審査
借入をするには銀行の審査が必要になります。
銀行もお金を貸して利息を受け取ることで利益を計上しています。焦げついてしまえば利息はもとより貸した元本も回収が出来なくなり銀行の損失となります。
株式会社や合同会社では有限責任が認められており、出資した金額以上の責任を負わないと定められています。
会社が倒産して場合には、銀行が損失を追うことになる為銀行は貸付を行う前には入念に審査を行います。
どのような審査が行われるのでしょうか。
謄本や税務申告書の提出
借入にあたって一般的に必要なのが税務申告書です。税務申告書からは決算状況のほか株主、科目内訳、納税の状況などたくさんの情報を読み取ることができます。
第三者である税務署に申告をしている物であることから最も信頼性が高い帳票のひとつです。
残高試算表
税務申告書を補う目的で求められることが多い帳票が残高試算表です。
税務申告は原則1年に1回行うものであることから、決算から数ヶ月経過していれば直近の状況がわかりません。申告直後でない限りは残高資産表も求められることが多いでしょう。
事業計画書
会社としての実績が少ない場合や設備資金を必要とする場合によく求められます。
特に設備資金を借り入れる場合には、金額が大きくなりやすく投資に対してのリターンがイメージしづらくなります。
事業内容や取引先の情報、必要とする資金の内訳、向こう3年から5年の収支の予測推移を記入していきます。
銀行はその計画が妥当であるかを判断して借入金額が決まります。
ただ計画を書くだけでなく、必要な借入金額の根拠や、無理なく返済できることを定量的に示すことで借入がしやすくなります。
代表者保証
株式会社や合同会社には資本金の出資額を限度に、それ以上の責任が問われない有限責任が認められており、対策をしなければ倒産すれば必ず貸倒が発生し銀行は大きなリスクを抱えることになります。
その為、銀行で借入を行う際には、担保を設定するのが一般的です。十分に担保が出せない場合は代表者の連帯保証を求められることがよくあります。
株式会社は出資額を限度とする有限責任とされていますが、担保が用意できない場合はこの代表者保証を求められることが多く有限責任のメリットを享受しにくいのが現実です。
借入をする為に粉飾決算をするとどうなるの?
銀行は貸したお金は回収しなければいけません。赤字を出している会社では借りたお金を返済する能力が乏しいと判断されお金を借りにくくなります。
借入をしやくくする為に帳簿を操作して、業績を良く見せようとすることがあります。
これが粉飾決算です。
粉飾決算は意図的に帳簿を操作し、銀行を騙す側面がある為、厳しく責任を問われます。
粉飾決算についてはこちらの記事で解説しています。
借入にまつわる制度
借入は会社や代表者の信用力により審査が行われるたうえで金額が決定します。
しかしながら、設立したばかりの会社は実績がない為金を借りにくい状況にあります。
何年も営業している会社であれば、計画値を過去の実績と比較することで現実的な内容であるのか判断基準とすることができますが、過去の実績がなければ貸す側が高いリスクを取ることになり創業当初はお金が借りにくいのです。
そのような状況であると新規開業のハードルが高くなるので、国の機関や自治体の制度として支援を行い信用力不足を補う制度があります。
信用保証協会
信用力が弱く、対銀行の借入基準に達しない場合に保証してくれる信用保証協会という機関があります。
信用保証協会は保証料を払うことで、事故が起きた際に債務者に代わって銀行に一定割合を弁済をしてくれることで銀行側のリスクを下げることで借入をしやすくしてくれます。
ただし、信用保証協会が銀行に対して肩代わりしてくれても債務が消える訳ではありません。債務は銀行から信用保証協会に移り信用保証協会への返済は行わなければいけないので注意が必要です。
新創業融資
開業したばかりの会社は実績がない為、借入をしにくい状況にあります。スタートアップ企業が資金調達をしやすくする為に、日本政策金融国庫の制度融資として貸付を行なっている融資です。
実績がないにも関わらず、無担保無保証人で借り入れができる神様のような制度です。
ただし、制度融資ではありますが貸す側にとってリスクの高い制度である為、利息は安くない点と大きな金額の借入はしにくい点がネックとなります。
新型コロナ貸付
政府が予算をつけて、救済措置として貸付を行なっている制度融資です。
新型コロナウイルス対策の緊急支援措置である為、通常では考えられない金額を借りられれました。
無利子貸付や、利子補給で実質無利子等の措置がある為、先が見通せない状況の中、借りられるだけ借りた会社も多いようです。
過大な借入をした場合、後に返済に行き詰まる可能性が高いので借入後の資金の使い方には細心の注意が必要です。
設備資金と運転資金
借入をするに当たっては設備資金と運転資金という考え方があります。
名前の通りですが、設備資金は事務所や機械等の設備を購入する為の資金であり、運転資金は日々の支払いをする中で資金が不足する際に借り入れる資金を指します。
一般的に設備資金の方が借入の審査が通りやすく、金額も大きくなりやすい傾向にあります。
設備投資を購入することで生産能力や業務効率の向上が見込まれ、その後の利益を生み出す元となる前向きな借入であると捉えられるのも要因でしょう。
借入金と税金
借入をすると毎月返済する必要が出てきます。
借入金額着金した時には、会社の預金残高が増えますが、返済とともに減少していきます。
返済額以上の利益を出さなければ、預金残高は減り続け、追加融資を受けなければ事業が立ち行かなくなります。
気をつけるべきは、現金が会社に入りますが借入の時に利益計上せず、返済をした時にも利息分しか費用化はされません。
損益計算書上は利益が出ていて法人税の納税が発生するにも関わらず、手持ちの現金はどんどん減っていくという現象が起きるてしまうので注意が必要です。
借入金とキャッシュの関係はこちらで解説しています。
借入をした場合のよくある誤算とは?
赤字でも潰れない会社がある
日本の法人の7割は赤字と言われています。
赤字であっても長期間事業を継続出来ている会社が存在しています。
会社は赤字であってもキャッシュが続く限りは存続させることができます。
税金対策を行っていて意図的に赤字を出している会社や、親会社等にとって重要な役割を担うことで資金援助を受け続けられるなど様々な理由があります。
赤字でも潰れない会社については別の記事でも解説しています。
赤字でも潰れない会社と黒字なのに潰れる会社の違い
まとめ
借入金はマイナスなイメージを持つ方が多いですが、適切に活用することでその時のリソースでは対応できないような仕事を受けられたり、事業拡大の時間短縮をすることが出来るツールです。
自己資金だけで事業が回るのが理想ですが、積極的な投資を行い攻めの借入をすることで事業拡大のスピードは劇的に早くなります。
無計画に借入を行うことは避けなければいけませんが、戦略的に利用をすることでより会社をより早く大きく発展をさせることが出来るので、上手に活用をして頂ければと思います。